電脳版「さめちゃん通信」

 

B 陽之助、その独演会「陽之助の怪・第一期」を何とか終了。「あぁクタビレた。早く呑みに行こうぜ。」

☆↓2000/12/09お江戸広小路亭「陽之助の怪 ぼる12」にて

芸人もアル程度に成ると、一体どう云う訳か「独演会やりたい症候群」と云う厄介な病気が発症してしまう様でございます。これは前座時代、楽屋で先輩達の「愛の鞭」で虐げられて居た/先輩達に威張り散らされて居た鬱憤が溜まりに溜まって、「たまには自分がトリをとりたい/自分が一番偉くなりたい」と云う愚かな願望から、大抵が二ッ目昇進を果たすと「待ってましたとばかりに」独演会を興行してしまい、初回だけは御祝儀半分の義理の筋が大挙して集まって呉れるから黒字に成るモノの、二回目からは底なしの赤字地獄に陥って、暫しの間、「あぁ俺には独演会はまだ無理だったのか」と自己嫌悪で再起不能に成りかけると云う、大変な悪性の病でございます。ご多分に漏れず、陽之助も見事に感染致しまして、世間様の御迷惑を一切顧みずに興行して居たのが、「陽之助の怪」。何しろ芸界の常識を破って、前座の頃から、弟弟子の神田陽司・女流噺家の春風亭すずめ(お〜いすずめ、お前は何処に飛んで行ったのか?/芸界復帰を果たした神田昌味 姉サンに途中から交代)の「虐げられた変人三人」でタックを組んで「一姫二太郎の会」と云う三人会を33回も興行し、死にたく成る程の「前代未聞の大赤字」を散々体験して居た筈なのに、止しゃイイのに独演会に変更してほぼ丸三年。最近、お客様の入りがイイものだから、調子に乗って興行回数を増やすと云う「乗るか反るかの大勝負」を決定し、第二期へ移行寸前。年四回興行=第一期最後の独演会だ。

うちの師匠もそうらしいが、誰でも独演会の前と云うのは異様に落ち着かないモノらしい。前日辺りからソワソワし、イライラし始め、愛想が悪くなる。大好きな酒が喉を通らなく成る。高座の出来と客入りが心配でナカナカ眠れなく成る。布団の中で何時までも、ブツぶつブツぶつネタをさらう様に成る。こりゃ、とても人に見せられる様な状況じゃございません。不安の夜がようやく明けると状態は一段と悪化し、ドンドン落ち着かなく成り、辺りかまわずイノブタの様にせわしなく動き回り、些細な事に不条理な怒りを覚え、高座への恐怖心から何処かへ逃げる事を考える。雷でも落ちて広小路亭が焼けてしまう事を祈り始める。突然この世が終わって呉れる事を悪魔に対して願い始める。お客さんが一人も来ないで「入れ掛け」に出来ないかと夢想し始める。と、出来うる限りの現実回避をしたとしても、そんな事が実現する筈も無く、昼前に成って遂に諦める。「仕方が無ぇから、取り敢えず今夜の独演会をやっつけてこよう」等と、お客様に聞かれたらば、例え鋸挽きにされても文句を言えない様な心境に陥る・・・・。毎回毎回、こんな事の繰り返しでございます。

無理に昼食を胃袋に放り込み、着物の支度をして、つり銭の確認をして、次回のチラシやアンケートの枚数を数えて、まっさらのディスクと充電済みの電池を録音用のMDレコーダーに入れて、お風呂に入って身を清めて、神棚の浅間神社様に二礼二拍一礼をしても、まだ午後一時。「お〜い、夜の独演会まであと何時間有るんだよ。緊張感が持たないよぉ」。とても家には居られない。「仕方が無いから、上野に行こう」。まだ午後一時半だよ〜。こう云う時の山手線の早い事早い事、アッと云う間にJR御徒町駅。流石に土曜日、アメ横に大勢人が居るなぁ。1%でイイから独演会に来て呉れないかなぁ。吉池から松坂屋の前を通ると広小路交差点。「あぁ広小路亭に雷が落ちてないよ。ったくツイて無いなぁ」。昼の定席の木戸さんに挨拶して、そのまんま前を通り過ぎる。いつもの天神下のマックへ、やっと二時。胃がストレスで痛いので、アイスティーを一番大きなサイズで、レモンを大目に、頼むよバイトのお姉ちゃん。窓際に席を取って、さぁ楽屋入りまでジタバタしましょ。高座に上がる寸前までジタバタしてる仲間も居るけれど、そう云うのは好きじゃ無いなぁ。粋じゃ無いよ、楽屋に入ったらサラッとして居たいモノですよねぇ。楽屋入りしたらば、例え下手くそでも「人事を尽くして天命を待つ」で行きたいモンだなぁ。その為には楽屋入りの寸前まで、精一杯ジタバタしなくては・・・・。昨日までに、寝てても出来る位に稽古を重ねた筈だけれども、やっぱり不安だわ。もう一回ネタをさらおう、ブツぶつブツぶつ。もう一回ネタをさらおう、もう一回ネタを・・・・。おや、何時しか気付けば四時半だ。そろそろ楽屋入りをしなくては。

広小路亭の昼席上席、この日のトリの伸冶師匠が高座から降りて来たばかり。「今日、夜、独演会なんですよ」。暫し雑談。あぁ気分が落ち着いて行く、やっぱり先輩方は場数を踏んで居るだけにホグシ方が上手いなぁ。本牧亭の定席を終えて小松と京子も到着。きっと固まって居るだろうと次回ゲストの「そっくり寅さん」青山正勝師が、葛飾柴又でのバイの帰りに草団子を持って楽屋に来て呉れる。だいぶホグサれる。でも陽之助は甘いモノ苦手なんですよ、次回はお酒がイイなぁ。五時半、開場。青山師、次のバイへ出掛けて行く。入れ替わりにマスター閑古鳥、いつもの様に楽屋で遊んで行く。お客様の出足、結構イイみたいだなぁ。いよいよ六時、開演。前座の京子が高座へ、拍手がでかいぞ。続いて小松が高座へ、前座を頼めるのは今回と次回だけだなぁ。2001年春に二ッ目昇進が決定、次々回の「陽之助の怪」は「神田小松 二ッ目昇進披露興行」で決まって居ますな、頑張れよ。そろそろ着物に着替える。帯を締めると気分が落ち着く事、袴も履かなけりゃ。そこへ今回のゲスト・幇間の桜川七助サンが楽屋入り。この広い大東京で、プロの幇間はたったの四人だけ。中でも七助サンが一番の若手。講談も一時絶滅しかかった事が有るだけに、他人事には思えない。ありとあらゆる芸人の中で一番修業が難しいのが幇間。でも幇間芸はお座敷に無くては成らないモノ、江戸の粋の象徴だ。例え最後の一人に成っても七助サンなら、幇間を残して呉れますよね。さて高座に上がりましょ。さぁ出番だ。

途中に中入りと七助サンの大爆笑幇間芸を挟んで、二席の高座。前席「赤穂義士銘々伝/両国橋の出会い」はハッキリ云って不出来でしたが、後席「夫婦餅」はネタ下ろしとしてはまずまずの出来かな。尤もアレをまずまずと思って居る様では、真打ち昇進はまだ遠いなぁ。もっと読み込んで、自分のモノにしなければ。いいネタだからねぇ。頑張りましょう。

第一期終了記念に後席を読み終わってから、お客様方のお手を拝借して〆ましょう。しかも陽之助の大好きな「一目上がり」で。御存知じゃ無い方が殆どですので、まずは説明を。

[一目上がりの手〆]

最初は「人差し指」だけで、しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃんしゃん

次は「中指」も加えて、しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃんしゃん

さらに「薬指」も加えて、しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃんしゃん

「小指」も加えて四本指で、しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃんしゃん

最後は「親指」も加えて全ての指で、          しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃん・しゃしゃしゃんしゃん

この「一目上がり」ってイイんですよ、段々音が大きく成って来て。最初の「人差し指」だけだと、音が小さ過ぎて皆不安に成る様ですが、その分最後の「全ての指」の時に大きな音に成って感動するんですよ。どうぞお試しあれ。みんな大喜び、コイツを東京中に流行らせましょう。

高座終了後、お客様達といつもの「上野市場」で「第一期終了記念/忘年」大打ち上げ大会。七助サンも御一緒だ。いいんだよ七助サン、ここでも幇間しなくても。その分のギャラは出ないよ。ナに、幇間の周知とお客様の開拓だって。あんたは真面目だねぇ。さぁさ呑め呑めどんと呑め。女だったら死ぬまで呑め。男だったら死んでも呑め。どんどん騒げ、もっと騒げ。どうせ払いは割り勘だ!!あぁ楽しいなぁ。毎回こういう宴会だったらなぁ。

でもよくよく考えてみると、この打ち上げでの「幸せな虚脱感」を味わう為に、苦労して独演会をして居る様な気がしますねぇ。そんなので良いんですかねぇ。               

           (毎回迷惑をして居る「上野市場」アルバイトのイッちゃん発/DYK電)

(2000/12/20)

 

電脳版「さめちゃん通信」地獄の味噌蔵へ戻る